ミニマリストとして生活している私は、持ち物のほとんどをデジタル化して管理している。紙の写真を一枚も残しておらず、そのために、万一、私が突発的な事故や病気で亡くなった場合に、長男・次男に私の撮った写真を夫や息子たち自身に引き継げなかったらとても寂しいと思った。そこで、デジタル遺産を引き継ぐ方法を探した。
その中で見つけたのが、Appleのデジタル遺産プログラム(Digital Legacy)だった。
Appleのデジタル遺産プログラムとは何か?
まず、公式の説明を整理する。Apple公式のヘルプでは、こう記されている:
“A Legacy Contact is someone you choose to have access to the data in your Apple Account after your death.”(あなたの死後、Appleアカウント内のデータにアクセスできるように選んだ人物)
つまり、アカウント保持者が亡くなった後に、あらかじめ指定した信頼できる人物がそのアカウントに保存されたデータへアクセスできる仕組みだ。わかりやすく言えば、自分の「スマホやiCloudにある思い出・ファイル・メッセージ・写真など」を、信頼する人に“託す”ための機能ということになる。
設定手順も公式に紹介されており、デバイス上で「設定 → 名前 → サインインとセキュリティ → Legacy Contact」から登録可能だ。ただし「遺された人がアクセスできるデータの範囲」については、注意点も存在する。すべての情報が対象になるわけではない。
夫婦でお互いを登録した
我が家では、まず私と夫の双方でこの仕組みを登録した。手順を以下に箇条書きでまとめる。
- iPhone(またはiPad/Mac)で自分のApple IDにサインイン
- 設定 → 名前 → “サインインとセキュリティ”を開く
- 「Legacy Contact(遺産連絡先)」を選択
- 「追加」をタップし、Face ID/Touch IDまたはパスコードで認証
- 夫または私の連絡先を選び、登録後に生成されるアクセスキー(Access Key)を相手に共有
- アクセスキーは印刷して紙で保管
夫婦それぞれが相手をLegacy Contactとして登録したことで、どちらかが先に亡くなった場合、もう一方がApple IDデータにアクセスできるように整えた。
この作業を終えたことで、少なくとも写真やメッセージ、iCloud内のファイルが託せるという安心感が生まれた。
iCloudキーチェーンが対象外という落とし穴
ここで重要な落とし穴に気づいた。私たちが「ぜひ相続してほしい」と考えていたデジタル情報の中に、アカウント情報・パスワードがある。これは多くの場合 iCloud Keychain に保存されている。しかし、Appleのデジタル遺産プログラムでは、このキーチェーン内のパスワード情報は対象外とされている。
“Certain information, like … data stored in your Keychain—like payment information, passwords, and passkeys—can’t be accessed by your Legacy Contact.”
(キーチェーンに保存された支払い情報やパスワード、パスキーなどのデータは、遺産連絡先がアクセスできない)
つまり、いくらLegacy Contactとして登録していても、iCloud キーチェーンに保存されたパスワード・決済情報・パスキーなどは、相続対象にならない。これは我が家のように金融口座のログイン情報をキーチェーンに依存している世帯には非常に大きな影響を及ぼす。
アカウント情報が引き継げないリスク
我が家では、金融機関の利用は主にネット証券やネット銀行で、ひとつの通帳・紙の契約書だけでは済んでいない。多くの口座ログイン情報、二段階認証、アプリ認証などをiCloud キーチェーンに頼ってきた。そのため、私が死んだ後に夫や息子たちがどこにどの口座を作っていたかを確認しようとしても、ログイン情報が見つからない、という状況になりかねない。
iCloud キーチェーン上のアカウント情報が引き継げないという事実は、日常生活・家計管理・資産継承という観点でかなり重大だ。思い出の写真だけでなく、金融資産をどう守るかという観点でも、“パスワード情報”が相続可能であるべきだった。
Appleの仕組みは「写真・メッセージ・ファイル」はカバーしているが、「パスワード・アカウント情報」はカバーしていない。これはデジタル中心の生活をしている世帯にとって盲点だ。
Appleデジタル遺産プログラム以外の対策案
このような落とし穴がある以上、以下のような対策案を検討した。
- 信頼できるパスワードマネージャーを導入し、マスターパスワードを夫婦で共有・保管する(例:1Password、Bitwardenなど)
- 紙またはUSB・外付けHDDにログイン情報を整理して保管し、家族信託・遺言書と一緒に保管する
- 家族間で定期的に「どこに何の口座があるか」「保管場所はどこか」を共有する仕組みをつくる
- 各金融機関や証券会社ごとに死亡時の手続き方法を整理してリスト化する
- 将来的にはデジタル資産継承サービスや遺言信託の活用も検討する
どれも完璧とは言えない。特にログイン情報をキーチェーンに一任していた生活では、情報の整理と共有だけでも手間がかかる。
まとめ
Appleのデジタル遺産プログラムは、写真・メッセージ・ファイルなどの主要データを信頼できる相手に託せる点で非常に有意義だ。一方で、iCloud キーチェーン内のパスワード・決済情報・アカウント情報が相続対象とならないという点は、デジタル中心の生活をしている人にとって見過ごせない落とし穴である。
対策案も検討したが、どれも「手間」「継続管理」「完全な安心には至らない」という課題が残る。幸い、今のところは寿命に余裕がある(気がする)ので、もう少しこの課題について模索し続けたい。




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