ベイブレード限定モデルが買えない?転売ヤー問題を経済学から考える

デジタル×ミニマルLife

先日、友人が「ベイブレード25周年記念展」に行ったときのことだ。チケットを買えば限定モデルを購入できる仕組みだったのだが、会場には明らかに転売目的の人たちがいて、展示会を何周も回ってはレジに並び直し、巨大な紙袋にベイブレードを詰め込んでいたという。「こういうのって違法じゃないの?」と友人は憤慨していた。けれど実際には、転売そのものは原則として違法ではない。むしろ「高くても欲しい人がいるなら成り立つビジネス」ともいえる。では、なぜ転売はここまで嫌われるのか。経済学的に整理してみる。

転売は本当に違法なのか?

結論からいえば、転売は基本的に合法だ。売り手と買い手が合意すれば価格は自由に決められる。定価の何倍であっても、それに納得して買う人がいれば取引は成立する。ただし例外はある。たとえばチケット不正転売禁止法に抵触するケースや、古物営業法(中古品の反復継続売買には許可が必要)に当たる場合、詐欺的な手口・不正アクセスなどは当然違法だ。とはいえ、新品を購入してフリマ等で売る行為は現行法では違法とはいえない。

自由経済から見た転売の位置づけ

価格は本来、需要と供給の交点で決まる。しかし企業はブランドや対象年齢を踏まえ手に取りやすい定価を付けがちで、実際の需要より低めに固定されることがある。一方で消費者の支払意思額(WTP)は分布しており、「定価なら欲しい」人から「数倍でも欲しい」人まで幅がある。この定価と高いWTPのギャップが、転売ヤーの利益余地だ。結果として、転売は市場を実勢価格に近づける調整として機能する側面がある。

パレート効率と「不公平感」

転売は経済合理性の面では説明できるが、社会的には強い反発を受ける。理由は効率性と公平性のずれにある。パレート効率の観点では、合意に基づく取引が進むほど改善余地は小さくなる。しかし現実には、本来の対象である子供が買えず、資金力のある一部の大人に偏ることで機会の公平さが損なわれる。この違和感が「転売は嫌だ」という感情につながる。

価格差別という考え方

転売ヤーが利益を得られるのは、企業が一律の定価を設定しているからだ。もし企業が消費者ごとの支払意思額(WTP)に応じて価格を変えられれば、転売の余地はなくなる。これを経済学では価格差別(Price Discrimination)と呼ぶ。

種類内容具体例
第1級価格差別
(完全価格差別)
消費者一人ひとりのWTPに合わせて価格を設定理論上のみ可能、AIやビッグデータで近づく可能性
第2級価格差別
(数量・バージョン差別)
消費者が自ら選べるように、数量や品質で価格を分けるまとめ買い割引、通常版と限定版、サブスクの段階プラン
第3級価格差別
(属性差別)
属性ごとに価格を分ける学生割引、シニア割引、地域別料金

現代では、航空券やホテルに見られるダイナミックプライシングが第2級や第3級の応用例だ。需要が高まれば自動的に価格が上がり、WTPの高い顧客に対して企業が直接利益を回収できる。ただし「同じ商品なのに人によって値段が違う」ことへの心理的反発が大きく、受容性が課題となる。

企業はどう対策できるか

  • 購入制限:お一人様◯点・同一住所1回など。ただし正規需要まで制約しがち。
  • 抽選販売・事前予約:先着を避け、買い占め余地を縮小。
  • 本人確認・会員制:多重購入や不正応募を抑止。
  • 公式リセール:正規の二次市場で上限・手数料を設定し安心と透明性を担保。
  • 供給の調整:再販や段階的供給で品薄期間を短縮。

直近の事例としては、Nintendo Switch 2 の販売方式が分かりやすい。任天堂は抽選販売を基本とし、応募条件として「Switchのソフトを一定時間以上プレイしていること」や「Nintendo Switch Onlineに一定期間加入していること」などを設定している。これは単なる抽選ではなく、属性によって購入資格を分ける第3級価格差別に近い仕組みだ。さらにメルカリや楽天ラクマなどと連携して転売監視を行い、不正出品の削除にも取り組んでいる。供給を増やすことにも言及しており、転売ヤーが介入できる余地を多方面から縮小させている。

まとめ

転売は「定価が低め」×「WTPの高い層が存在」×「供給制約」の三点がそろうと発生しやすい。経済学的には需要と供給の調整として理解できるが、生活者の感覚では不公平が先に立つ。だからこそ企業は、購入制限・抽選・本人確認・公式リセール・供給調整などで転売余地を小さくする設計が求められる。任天堂がSwitch2で導入した仕組みはその好例だ。私たち消費者側も、「なぜ起こるのか」を知っておくと、現場での判断や期待値の持ち方が少し変わるはずだ。

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