iPadで楽譜を表示し、ページターナーで譜めくりを行うようになって半年。ページターナーのコントロールにも慣れてきた。しかし本番環境では、靴底の厚みと踏み加減のわずかな差が誤作動を招く。靴を履いての演奏で複数ページが一気に送られて演奏が破綻した経験を踏まえ、素足に近い接地感を確保できる靴として薄底の「ジャズシューズ」に切り替えた経緯と所感を記す。
外で起きた予期せぬトラブル
自宅では素足でページターナーを踏んでおり、反応は安定していた。しかし、本番では靴を履くため、踏み込みのストローク感覚が変化した。一度の踏み込みでスイッチが連続入力され、ページが数枚同時に送られて演奏が事故になった。ページターナーは軽いタッチで反応する設計が多く、微小な入力差がそのまま結果に直結する。
原因の整理
ピアノのペダルは比較的重めに作られているため、靴底の厚みに対して許容度が高い。一方、ページターナーは軽量かつ高感度で、厚底や硬いソールの靴では接地情報が足裏に伝わりにくい。結果として踏み始めの位置と力加減を誤認しやすく、過踏や二度踏みを誘発する。ペダルのミスは濁りで済むが、譜めくりの暴走は演奏継続そのものを脅かすため、リスクが根本的に異なる。
解決策――薄底の「ジャズシューズ」
素足に近い感覚を確保するため、薄底かつ柔軟な靴を検討し、ダンス用のジャズシューズに行き着いた。
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外観は革靴風だがソールが薄く、足裏の情報がダイレクトに得られる。実際に導入したところ、体感は「厚手の靴下を一枚重ねた程度」。踏み始めの位置決めが容易になり、微小な力加減のコントロール精度が上がった。Amazonのレビューでもエレクトーン奏者の使用例が多数見られ、複数ペダルを繊細に操作する用途との相性が良いことが裏づけられている。
履き心地と見た目、そして価格
歩行性能の良し悪しではなく、ペダリングの快適性が重要だ。その観点でジャズシューズは有効だと判断する。難点はデザインの選択肢が少ないこと。華美なドレスには馴染みにくい。ただし、パンツにシャツ程度の装いなら舞台上でも違和感は小さい。価格はおおむね3,000円前後で、試行導入のハードルが低い点も評価できる。
ピアノ専用シューズとの比較
市場にはピアノ専用シューズも存在する。たとえばリトルピアニスト(公式サイト)は意匠性が高く、舞台映えする。一方で価格は約4万円と高額だ。コンクール常連やプロの投資としては合理的でも、趣味で適度に弾くレベルでは費用対効果の観点で躊躇がある。薄底・低価格・十分な操作感という条件を満たす点で、ジャズシューズは実用的な折衷案になる。
「弘法筆を選ばず」では片づけない
世界的ピアニストの中には、ピンヒールや厚底でも難曲を難なく弾き切る例がある。しかし、それは高度な適応力と訓練の結果であり、一般の演奏者にとって最適解とは限らない。自分が弘法でない以上、道具に最適化するのが合理的だ。ページターナーのように「ミスの代償が大きい装置」ほど、足裏感覚を阻害しない装備を選ぶべきだと結論づける。
運用上の補足
- 本番前に必ず靴を履いた状態で反応閾値を確認する(長押し・単押し・連打の挙動テスト)。
- ステージ床材(カーペット/木床)でスイッチの置き場所と滑り止めを事前に決める。
- 感度設定やページ送りの「長押し=連続送り」機能は必要に応じて無効化する。
- 非常時のために画面タップでの手動スクロール(または代替デバイス)を準備する。
結論
ページターナーは高感度ゆえに、靴底の違いが直接ミスに結びつく。薄底で足裏の情報が得やすいジャズシューズは、コスト・実用性・外観のバランスが良い現実解だ。舞台衣装との整合を除けば欠点は小さく、譜めくり事故のリスク低減という効果は明確である。自宅と本番で条件が変わる演奏者ほど、導入を検討する価値がある。



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